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上映会のためのステートメント

本展総合キュレター 太田エマ: ジュリア・ドグラ-ブラッツェル

イレーヌ・スモーリン: 音のために編曲された映像:ジュリア・ドグラ−ブラッツェルによる映像作品

本展プロデューサー地場賢太郎: 言葉の向こうへ




「クロニクル・オブ・サウンド」ジュリア・ドグラ-ブラッツェルの映像作品及び、「大気の中の上昇そして大地への落下」ドグラ-ブラッツェル映像作品に触発され編集し企画された映像プログラム


  個人的なものではあるが、同時に疎遠なもの、親密ではあるが、遠くにあるも、ジュリア・ドグラ・ブラッツェルの作品は、独特の魔法を吹きかけて来る。作品の長さは、僅か1分だったり数分だったりするが、その短さ故に、もっと美しくて複雑なイメージや、さらに幾重にも入り組んだ音への欲求に私たちを駆り立て、その虜にしてしまう。しかし一方で、その上映時間は瞬く間に過ぎ去ってしまうので、こちらに向けられたメッセージを感じた我々は、その特別な意味を知ろうと夢中になるのだ。それは捕まえるのが、難しい稀少種の蝶の捕獲になぞらえることが出来るだろう。その儚げな美しさを存分に愛でる余裕や、こうしたまたとない時間を与えようとする優しさも見せることもなく、一瞬、腕にとまり、風に乗ってどこかへ飛び去ってしまうのだ。

  ジュリアの魔術的でしかも現世的世界への短い探訪を延長するために、後半のプログラム2では最近40年のイギリス映像作品のいくつかを選び上映しよう。これらの作品には軽快さと繊細な表現を楽しもうとする共通した姿勢があるが、同時に表現的な深度も持っている。

キュレター : ヘレン・デウィット
英国映像協会 映画部門部長/プロデューサー:ロンドン・フィルム・フェスティバル+ロンドン・レズビアン アンド ゲイ・フィルム・フェスティバル

 

 

プログラム1:クロニクル・オブ・サウンド/ジュリア・ドグラ-ブラッツェル映像作品集 

1:A からBへ 2014
Super8 /b&w/colour/sound/1分3秒
言語:英語

 

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2:こどもの頃に 2014
iPhone/b&w/sound/2分3秒
アルチュール・ランボーの難解な詩「戦争」Guerre についての2部にわたる考察の前半

 

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3:出て行く前に 2010
Super8/b&w/colour/sound/5分15秒
言語:英語
「やっぱりこうなってしまったの。捕まってしまった、一瞬のイメージの間に。」J D-B
特定の文章から言葉がランダムに選ばれ、読み上げのために再構成されている一連の映像作品の一つである。

 

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4:「プロット 筋書き 2001-6
Super 8/colour/b&w/sound/4分45秒
言語:英語・フランス語
ドクラ・ブラッツェルのこども時代の日常言語であったフランス語と、成長した彼女が、母親が重篤な病に伏せていたスイスとイギリスとの間を行ったり来たりしていた頃、主に使っていた英語が併用されている。カメラはまるで日記のように日常の細部や、ありふれた時間の断片を記録していく。そして「一体何がその前に起こったのか」ということは十分に説明されないまま放置される。以上のように、この作品「プロット 筋書き」はフィルムフラグメントの形式をとっており、直接的な物語性、因果関係、時間軸から作品を構成することは回避されている。この作品は物語性よりもむしろ作品の物質的なテクスチャーに依拠しており、「映像、音声のスピードと変化の感覚的興奮による失った記憶の回復の可能性」(スーザン・トレンマー 「フレーム オブ マインド」(ドクラ・ブラッツェル作品の論評)Next Level  Ed 2 Vol 4, 2005)を促している。

 

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5:ウーシュリフト 原本 2014
Super8, Hi8, Agfa Scala 200 and iPhone/b&w/colour/sound /1分50秒
映像と音声の問答無用の決まり文句の結合、作品Urschrift は40年代のアメリカ刑事小説の少し斜に構えた解釈。

 

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6: タクシーに乗った少女 2007
Super8/b&w/sound/3分12秒
言語:英語
特定の文章から言葉がランダムに選ばれ、読み上げのために再構成されている一連の映像作品の一つ。「タクシーに乗った少女」の中ではドグラ・ブラッツェルが20年以上前に読んだことのある文章が慎重に選定されているが、実際はその内容のほとんどを彼女自身は忘れてしまっている。彼女は自分で作り上げた文同士がオーバーラップしている文章の織物が果たして元の本の物語的因果関係を維持しているかどうか確信を持つことが出来ない。上映の半ばを過ぎ、ビジュアル的要素がフェードアウトし始める時、映像と音声はこのトラウマのスクリーンの中で渾然と一体になるのである。ここでのストリーはすべてのストリーがそうである様に、一種の忘却の先ぶれとなる。それとは対照的に背景に使われている音声は9.11の一ヶ月後のニューヨークで実際に録音されたものが使われている。

 

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7:シアター・ゲーム(シリーズ・ノーワンから) 2016
Super8/colour/sound 2 mins
「謎の肖像シリーズ」最初の作品
(作者からの解説は特にありません。)

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8:クロニクル オブ サウンド 2015
iPhone/b&w/sound/7分20秒
使用言語:ロマンシュ語(ロマンシュ・グリシュン語及びロマンシュ・バルダー方言)
注:「ロマンシュ・グリシュン語:人工言語のロマンシュ・グリシュン語 ( Romansh Grischun ) は標準ロマンシュ語として1982年から徐々に導入されてきた。 バルダー方言Vallader dialects:ロマンシュ語のロマンシュ語の古形を残している方言。主にウンター エンガディン地方で使われている。」
男、女、言語、そして時間の経過などに関する反映像的なものと映像的なものの間の軋轢、

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9:ゲームのルール 2015
Super8/iPhone/b&w/colour/sound/3分32秒
言語:英語

時間、知覚、そして二つの引き離されてしてしまったように見えるストリーから形成された映像の考察。シャーロット・パーキンス・ギルマン著「黄色い壁紙」1892年ーそれは見ることと見られることの危機と過剰についての警告の物語であるがー単語やフレーズを完全には聞き取れないようにして、ドクラ・ブラッツェル自身の写真と映像の往還と関わりを、(それはこの映像作品の音声的な前景を形成しているが)表現し特徴付けている。面白いことに、ギルマンのこの短編が出版されたのは写真の隆盛が始まった時代にあたり、劇場映画(投射による映画)が発明される3年前のことであった。

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10:プロテクション・リーダー 2013
Super 8/b&w/silent/1分 32秒
(作者からの解説は特にありません。)

 

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プログラム2:大気の中の上昇そして大地への落下/ドグラ-ブラッツェル映像作品に触発され、編集し、企画した映像プログラム(最近40年のイギリス実験映像作品集) 
 キュレーション:ヘレン・デウィット 

1.エアリアル : Aerial
マーガレット・テイト イギリス 1974年, 4分/Margaret Tait, UK, 1974, 4 mins
 この作品は上空に果てしなく広がる大気と伴に、世界の創造性とその絡み合った混乱をひっくるめて、各家庭に配信するテレビ送信を思い起こさせる。またおそらく、エアリアルという題名はシェークスピアのテンペストに登場する同名の妖精をも喚起させるだろう。彼(もしくは彼女、歴史的にエアリアルは女性によって演じられて来た)は上昇することを性質とする大気や火、また高く位置付けられている人間の本性とともに、高位の元素的存在である。またこの作品、エアリアルは自由についての作品でもある。しかしその自由とは孤立の中にあるものでなく、むしろ他者との繋がりを探求する空間を我々に提供してくれるものである。

 

2.カメレオン : CHAMELEON
ターニャ・シェッド イギリス    1990年 4分/Tanya Syed, UK, 1990, 4 mins
 抑圧的な環境の中から、おんなは精神的、また肉体的制約から逃れようとする。自由になるため、つまり彼女自身になるために。この映像作家はリズミカルなインターカット手法を用いて、作家自身の出現を創り出す。それは彼女が我々が本当の世界と考えているものに入り込もうとする時に。しかし本当に本当って何だろう?

 

3.デヴィアント・ビューティ/異形の美人 : Deviant Beauty
ティナ・キーン イギリス   1996年 10分/Tina Keane, UK, 1996, 10 mins
 ミステリアスで、両性具有の女が薄暗いカーニバル的な世界を旅している。日常からは認知出来ない伝統的な意味の体系を、浸食することで、使い古された常識を解体し、権威を揶揄する。この作品の立ち位置は、非固定的なセクシャリティーと性的欲望だけではなく、死と崩壊の場でもある。別の世界での快楽の誘惑でじらしつつ、この作品は、イメージの上辺だけの魅惑が導くものは、ただ忘却のみであると警告している。

4:葬送の段階 : Stages of Mourning
サラ・プーシル イギリス   2003年 19分/Sarah Pucill, UK, 2003, 19 mins
 個人的な殯(もがり)儀式の実行。この映像作家は彼女のパートナーであった同じ映像作家であったサンドラ・レハイヤーの死を受容するための儀式をカメラに収める。作家は彼女自身の身体とパートナーの写真を使い、観客とともにその体験を共有するためのプロセスを通して、 深く親密だったパートナーとの関係が引き裂かれてしまったことを考察する。この映像作品が検証しているのは、この世界にもはや存在しないものと、その身体の動きを撮影した、時に残響のようなものであったり、またリアルなものの様に現れたりもする写真との関係である。が、それにもかかわらず、写真として永遠に捉えられた身体の動きは、 その二つの様態、残響とリアルが混じり合ったもの、あるいは二つを別々に作り続けている。

 

5.旅から帰還した女 : A Woman Returns from a Journey
ルース・ノバチェック イギリス 2016年/Ruth Novaczek, UK, 2016, 10 mins
 「あなたが欲しいものを手に入れるということは危険なことなのよ。と彼女は言った。それ はあなたを悲劇へと追いやってしまうの。」この映像作品は失われた秘密の過去とミステリ アスな女を探求する「心の探偵」の後を追って行く。偉大な映像作家例えば、ヒッチコック、ゴダール、アントニオーニ、パゾリーニ、アッカーマンのクリップ、銀幕の永遠の女神たち、 バーグマン、クロフォード、ヴィッティを伝説的なアメリカ映画シーンなどと一緒に使い、 私たちはこのいつも慣れ親しんでいる世界の表層の下を探ろうとする女性探偵の後について いく。しかし彼女がその深さを測ろうとした時、世界は底知れない深淵を顕すのだ。

ジュリア・ドグラ-ブラッツェル略歴

関連企画サウンド・オブ・クロニクル/ジュリア・ドグラ-ブラッツェル個展

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